「船井美佐個展 垣間見える異形の世界」

 現代美術はボーダレス化が進んでいる。作品が平面的であっても本質的には彫刻家の仕事ということもあるし、その逆もありうる。
 船井美佐は学生時代に日本画を学び、近年は花鳥画や山水画に見られるモチーフをイラストレーションのような太い線だけで描いた作品を発表してきた。日本画の様式をとらえ直そうとする試みであるが、今回の「質量の無いドローイング」では、さらにその先に一歩突き抜けた感がある。
 窓辺に吊り下げられているのは、これまでの作品で描いてきたイメージの輪郭に沿って、透明なビニールシートを切り抜いたものである。近くで見ると鳥や木の枝のかたちがわかるが、ひとたび離れると作品のかたちは消え、その向こうにひずんで見える現実の風景だけが強く印象に残る。
 そこにあるようでないような存在感の希薄さは、絵画表現の虚構性を想起させる。一方で、表面をとおして見えるひずんだ現実の風景は、豊かな絵画的世界の拡がりを暗示している。
 作品をとおして異形の世界を垣間見せること、それはまぎれもなく画家の仕事であるように思うのだ。

池上司(西宮市大谷記念美術館学芸員)

日本経済新聞夕刊(関西版)2006年2月23日 < 今月のギャラリーから>